高校1年生の「情報Ⅰ」で、2学期に「認知科学講座」と題して、人工知能と認知心理学をテーマとした2回の授業を行いました。今回の授業は、情報技術についての理解を深めるとともに、高校2年生の学校設定科目「人間と機械」の履修ガイダンスも兼ねています。
認知科学講座Ⅰ「人工知能」
最初のテーマは「人工知能」です。
ChatGPTなどの生成AIが身近になった現在、AIは私たちの学習や仕事、進路選択にも大きな影響を与えています。授業では、人工知能の歴史を振り返りながら、機械学習やディープラーニングの仕組みを学びました。
AIは、大量のデータから特徴や規則性を学び、物事を分類したり判断したりします。これは、人間が経験から物事を学ぶ仕組みにも通じる部分があります。また、以前はAIに代替されにくいと考えられていた創造的な仕事にも、生成AIが活用され始めていることを紹介しました。
こうした内容を踏まえ、授業の後半にはグループディスカッションを実施しました。

「生成AIは人間(あなた)をダメにする? あなたはAIについてどう思ってる?」
AIに任せることで自分で考える力が弱くなるのではないか。一方、AIのおかげで新しいことに挑戦できるのではないか。
生徒たちは日頃のAI利用を振り返りながら、意見を交わしました。
人によってAIに対する考えが異なっていて驚きました。正直反対派が多いと思っていたがそうでもなかった。正しくつかえば今のところは安心できると思う。
実はAIは人間の知能をもとにしていてその過去の莫大なデータから答えを出していることを知った。でも、人間が元になっているのに人間が負ける時代が来ると言われているのは不思議で、学習するということについての効率がいいのかなとか考えることたくさんで面白かった。
個人的には、AIが人を駄目にしてるように見えるのは、教育機関で日々の生活を送っているからだと思う。AIを活用してる大部分ではAIによって人はとても助けられているんだと思う。
- AIを使うときにあれこれが違うなとか色々考えることがあるから、全員がAIに乗っ取られるみたいなことはまだ近い未来ではないのかなと思う。でも、色々聞かれたときとかに確かにAIでも代替できるなみたいなことが多かったから、AIと共存しながら仕事をやっていく未来を作るには何が必要なのか考えてみたいと思う。
- 最近インスタとかティックトックとかのコメント欄を開くと確信がないのにAIかどうか疑うコメントが多いのでちょっと萎えます。あとは生成AIが普及する前はCGが多くて、「どうせこれもCGでしょ」みたいなのも見かけていたけど最近はCGを懐かしんでいたり、前より肯定的な意見が増えていて変な感じがした。
認知科学講座Ⅱ「認知心理学」

続く「認知心理学」の授業では、「人間と機械は本当にそれほど違うのか?」という問いを考えました。 さまざまな錯視を通して、人間の脳が情報を処理し、世界を認識する仕組みを体験。さらに、人間とコンピュータの情報処理を比較し、両者の共通点について学びました。 最後に、生徒たちは次の問いについてディスカッションしました。
「機械が『心』を持つ日は来る?」
そもそも心とは何か。人間と機械を分けるものは何なのか。生徒からは、次のような感想が寄せられました。
そもそも心とは何なのか、感情と何が違うのか気になった。
人間の心を再現できるのかなんて考えたこともなかった。ただ、いろいろな事象を紐解いてそれを結び直す作業をすればいろいろなことが再現できるのかもなと思った。
機械と人間は現段階では、心を中心とした違いがあると感じた。心の認知機能は機械も追いついているけれど、その場に応じた感情を持っていないためそこが大きな違いだと他の人の意見を聞いて考えた。
いずれ脳の再現によりコンピューターが(感情を)再現し、そうなると生物たるゆえんは何なのかと怖くなった
- AIはこころが持てるのかは、見る視点によって主張は変わって来ることがディスカッションを通してわかった。哲学的なものは難しいが話題が面白いので、興味が湧いた。
特別ゲスト! 卒業生の丸山さんが授業に参加
今回、偶然母校を訪れた卒業生の丸山さん(2020年卒)にも、特別に授業へ参加していただきました。
聴覚障害のある丸山さんは、2019年の在学中にも情報の授業で発表し、音声認識技術によるコミュニケーション支援について紹介。当時から、この分野で研究したいという夢を語っていました。そして、将来は音声認識に関する研究をしたいという希望も発表していたのです。
それから7年。現在はオーストラリアで博士号取得を目指し、AIを活用した研究に取り組んでいます。
授業では、生徒たちと同じ「生成AIは人間をダメにする?」という問いに答えていただきました。
(参考)ろう学校に通っていた小学生の女の子。その後の姿に迫る「テクノロジーで言語教育を変える。ろう者の大学院生の挑戦とは」
授業では、丸山さんが開発したリアルタイム音声認識アプリがずっと動いていました。
- 丸山さんの回答はこちらをクリック
こんにちは!丸山です!
私は学士課程でコンピュータサイエンスを勉強していました。正確に言えば、3年間の学士課程のうち2年間だけコンピュータサイエンスを専攻していたのですが、プログラミングが難しすぎて、途中でやめちゃったんです。
私が大学に入った頃は、まだ今のようにAIが普及していなかったので、プログラミングも一から自分で書かなければいけない時代でした。
そこで「もう私にはプログラミングは無理かな」と思ってデザイン系に進路を変え、大学院ではインタラクションデザインを学びました。
インタラクションデザインもプログラミングがゼロというわけではなく、授業の半分くらいはプログラミングでした。でも、比較的基礎的な内容だったので、コンピュータサイエンスのときほど難しくはありませんでした。
ちょうど私が大学院にいた頃からAIが身近な存在になってきて、「じゃあ、自分の苦手なところをAIに助けてもらえばいいんじゃない?」と考えるようになりました。
今、私は博士号の研究をしていますが、研究の中心はゴリゴリのプログラミングではありません。人間がコンピュータを使うときに、どのような影響を受けるのかという、心理学にも関係する分野を研究しています。
もちろん、研究ではプログラミングも必要です。でも、苦手な部分はAIにサポートしてもらいながら、自分の得意なことや興味のあることに集中できています。
そして面白いことに、ここに来てやっと、学士課程であんなに苦労して勉強したプログラミングの知識が役に立っているんです。
だから私は、勉強したことは、いつか必ずどこかで役に立つと思っています。
AIはとても賢いですが、あくまでもツールです。AIも間違えることがあります。でも、自分に基礎知識があれば、その間違いに気づいてサクッと修正できます。逆に基礎知識がなければ、何が間違っているのかも分からず、余計に時間がかかってしまうかもしれません。
だからこそ、AIをうまく活用しながらも、基礎知識を身につけることが大切だと思います。
これは日本語でも同じですよね。今はパソコンやスマートフォンが当たり前になって、漢字を手書きする機会が減りました。でも、だからといって中学校レベルの漢字も書けなかったら、やっぱり不便だと思いませんか?
AIとプログラミングの関係も、それと似ていると思います。
そして、もう一つ、私がAIの発達に感謝していることがあります。
それは、AIを活用した情報技術の発達が、私の人生の選択肢を大きく広げてくれたことです。
私が高校生だった頃は、まだ音声認識アプリが今ほど普及していませんでした。私は耳が聞こえないので、音声認識アプリがない環境で授業を受けなければいけませんでした。
でも今は、AIのおかげで音声認識などの情報技術が大きく発達し、私は自分の好きな場所で、好きな勉強ができるようになりました。
今はこうしてタイピングで皆さんにお話ししていますが、大学でプレゼンテーションをするときには、AI音声を使って発表することもあります。
さらに、文字を入力するとリアルタイムで音声に変換してくれる技術の研究も進んでいます。こうした技術がもっと発達すれば、タイピングしてから相手に伝わるまでの時間差も小さくなり、より自然にコミュニケーションできるようになると思います。
このように、AIを活用した情報技術の発達は、私の人生を本当に豊かにしてくれています。
私はよく「オーストラリアに来て人生が変わった」と言っていますが、それはオーストラリアの環境だけのおかげではありません。情報技術が発達したおかげでもあるんです。
もし今のような技術がなかったら、私は今、こうして海外で博士号の研究をしていなかったかもしれません。
だから私は、AIは人間の代わりに何でもやってくれる存在というよりも、自分の苦手なことをサポートして、自分の可能性を広げてくれる助手のような存在だと思っています。
大切なのは、AIが良いか悪いかということではなく、どう使うかということです。
AIに頼りきるのではなく、自分自身も学び続けながら、うまく活用していく。
そして、情報技術を使って、自分のやりたいことを実現したり、人生の選択肢を広げたりできたら、それが一番いいことだと思います。
せっかくこんなに便利な技術がある時代に生きているんだから、うまく使って自分の人生を豊かにできたら勝ちだと思います!
生成AIをどう受け止め、生徒たちにどう伝えていくべきか。教員である私自身も、悩むことの多いテーマです。
しかし、丸山さんの言葉やこれまでの歩みに触れ、AIが人間の可能性を広げ、確かに人々を幸せにしていることを実感する一幕となりました。
情報Ⅰから、学校設定科目「人間と機械」へ
今回の2回の授業は、高校2年生の学校設定科目「人間と機械」のガイダンスも兼ねています。
日出学園では2023年度から、「情報Ⅰ」と「倫理」の学びを融合させた「人間と機械」を開講しています。
この科目では、哲学・心理学・宗教・生命倫理などの視点から、「人間とは何か」「心とは何か」「幸福とは何か」「人間と機械はどう関わるべきか」といった問いを探求しています。
授業は一方的に知識を教えるだけではありません。心理実験やディスカッション、生徒自身が授業をつくる活動なども取り入れています。
人工知能を知ることは、人間を知ることでもあります。
今回の認知科学講座が、情報技術だけでなく、人間そのものについて考えるきっかけになればと思います。



